おかゆにっき

考えたこと思ったこと不思議なことをまったりもだもだ

いまだに覚えてる先生の話 1

授業中
ホームルーム
廊下での立ち話
先生は様々な場所で様々な話をしてくれるもの
しかして、若い生徒達は教員の長ったらしい話なんてろくすっぽ聞きやしない
ぼんやりしたり
友達とひそひそお喋りしたり
はては居眠りの子守唄
それもまたそういうもの

かく言う私もそういう不真面目な生徒でしたが
どういうわけか覚えている先生の話がいくつかあります
もうずいぶん前の記憶で、所々想像で補いもしますが、ひとまずこれ以上消えないように忘備録もかねて


大昔の中国に、一人の男がいた
当時は一夫他妻制の時代
男にも(羨ましいことに)三人の妻がいた

一人は輝かんばかりに美しい顔を持つ妻
男は彼女の顔を眺めているだけで幸せな気持ちになれた
彼女を美しく着飾らせてその姿を眺めるときが男の至福の時間だった
妻が求めるものはなんでも与えたし
彼女が美しくあることが男の幸せだった

二人目の妻は一緒には暮らしていなかった
彼女は少し離れた所に家を持っていて、そこに一人で住んでいた
しかし二人は仲むつまじく互いの家を行き来した
男は彼女と話すととても愉快な気持ちになれたし、彼女もまた彼との時を大切にした

三人目の妻は、いつも男について回った
何をするにも隣にいるし
男がなにかやましいことをしようとすると、
そんなことをして良いのですか?
また何かを見て見ぬふりをしようとすれば、
本当にそんなことをして良いのですか?
とにかく横から口を突っ込んできて、男は気の休まる時がない
どんなに叱っても彼女は気がついたら男の隣でにこにこしていて、男は彼女が苦手だった

そんな男が、仕事の関係で遠い国に行くことになった
男はあの美しい妻に言う
遠い国に行くことになったが、お前はついてきてくれるだろう?
しかし妻はびっくりして、男の頼みを跳ね退けた
とんでもない!そんな遠い国!
私はここに残ります!
男は妻の言葉にがっかりして、仕方なく二人目の妻の所へ行った

二人目の妻は男を暖かく迎えたが、話を聞くと残念そうに言った
私もそんなに遠い国へは……
でも、道の途中までお見送りします
男は二度も妻に断られて大層気落ちした

と、隣を見ると三人目の妻が何かを期待するようにじっとこちらを見ている
男は苦笑して彼女に言った
おまえ、私と一緒に来るかい?
妻はにっこり笑って、
ええもちろん 私とあなたは、ずうっと一緒にいるんですよ

この話に出てくる三人の妻は、それぞれあるものの寓意である
美しい妻とは、お金や財産のこと
離れて暮らす妻は、友人や家族
最後の妻は、魂のこと
この最後の妻には色々な名前があるが、いわゆる良心とか理性とか、人が必ず持っている自分を見つめるもう一人の自分のこと
そして男が向かう遠い国とは、お察しの通り黄泉の国
お金は彼に着いていきません
友人や家族も、まさか着いていくわけにもいきませんから彼を見送ります
しかし魂はその人の内側にあるものですから、黄泉の国へも付いてきます

人は誰しも魂の声を聞きます
ポイ捨てをしたとき
宿題をしていないとき
その声はそれらに注意を促しますし、それは大体とても煩わしいものです
それを無視することはそう難しくありませんが、
最後まで連れていけるのは自分の魂だけですよ
というお話

この話は高校時代の公民の先生が授業で語った話です
中国の古典か何かから引用したのかもしれませんが、出典についての話がされたかどうかすら覚えていません
所か、話の大まかな流れしか覚えていなかったので(書こうとしてみると思い出せないものですね)所々に私の創作が混じっています
妻はもう一人くらいいたような……?

しかしこの話のオチは当時の私に衝撃を与えたらしく、しばらくの間「魂の声」を無視できなくなって困ったものです
実は今だこの声には振り回されがちで、友人に「真面目をこじらせている」と笑われることも……
最近になってようやく聞こえないふりが出来るようになってきていたんですが、これを機にまた大きな声が聞こえてくるようになるやもしれません
いざ遠い国へ行く事になったとき、愛想をつかされていてはたまらないので、
奥さんのいうことは聞くことにしましょうか